業務オントロジーを構築するなら、最初に「どの問いに答えたいか」を決め、その回答に必要な対象と関係だけを定義します。商品資料と広告台本なら、台本の主張がどの商品と資料に基づくか、根拠が変わるとどの台本を見直すかが出発点です。
公開されている商品資料とSynClipの自主制作動画4本を使い、概念の定義から5つの主張の対応付け、誤接続や版違いの照合までを実行しました。自社の一工程へ置き換えられる小さな構築例です。
オントロジー構築で揃える意味
今回の対象は、商品資料と台本の間で根拠を確認する一工程です。台詞を作る処理や広告の配信結果は扱わず、商品名と混合比率の根拠をたどれるようにします。

用語集だけでは足りない理由
用語の一覧に加えて、どの対象を指すか、対象同士をどう結ぶかを定義します。StanfordのOntology Development 101も、対象範囲と答えたい問いから概念や属性を考え、反復して調整する進め方を示しています。(Ontology Development)
この例では、商品シリーズ、商品バリエーション、資料の版、商品事実、台本の主張を分けました。「商品バリエーション」は対象の種類を表す概念で、「無糖500ml」はそこに当てはまる個別の商品です。概念の定義と実際の値を別の列に置くと、用語だけを決めて終わることを避けられます。
業務データで残す四つの対応
商品事実には対象、属性、値、資料位置を記録し、確認した資料の版も結び付けます。今回なら、対象は無糖500ml、属性は製品名の区分、値は無糖、位置は発売資料2ページの製品概要です。
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| 概念 | 定義 | 実物の例 |
|---|---|---|
| 商品シリーズ | 同じ商品群をまとめる単位 | エスプレッソベース |
| 商品バリエーション | シリーズ内の個別商品 | 無糖500ml 甘さひかえめ500ml |
| 資料の版 | 根拠にした資料の時点 | 2025年2月27日発売資料 |
| 商品事実 | 対象 属性 値 位置の組 | 無糖500mlの製品名 |
| 台本の主張 | 台本内で根拠へ戻す文 | 無糖の商品名を使う台詞 |
無糖版と甘さひかえめ版は別の対象として識別します。一方、シリーズ共通の混合比率は商品シリーズへ結ぶ設計にし、個別商品の区分と混ぜません。
検索方式や承認とは分ける
意味と関係の定義は、資料をどう検索するかという方式や、誰が利用を承認するかという運用手順とは別の判断です。今回はJSONに記録して項目を照合しましたが、RDFやOWLによる推論は実装していません。
まず表計算の列と対応表で問いに答えられるかを確かめ、必要に応じてシステムに接続します。承認状態をモデルで表す場合にも、内容の根拠と承認の事実は別の関係として定義します。
オントロジー入門 概念と属性の基礎を先に確認する
自社の問いから関係を決める
問いを三つに絞る
業務オントロジーを作り始める時は、全社データを広く触る前に、同じ照合を繰り返したい問いへ絞ります。今回の範囲では、台本01の商品名はどの商品と資料に戻るか、無糖の商品名の根拠が変わるとどの台本へ影響するか、混合比率の根拠が変わるとどの台本へ影響するかの三つを対象にします。
- 台本01の商品名の根拠は、ネスカフェ エスプレッソベース 無糖 500mlと発売資料2ページの製品概要です。
- 無糖の商品名の根拠が変わると、台本01から台本04までの四つの台本が影響範囲になります。
- 混合比率の根拠が変わると、台本03が影響範囲になります。
照合対象は、台本の自然な会話全体ではなく、根拠へ戻したい一文や数値だけにします。根拠の商品事実は、台本の主張を支える商品名、属性、値、資料位置を持つ単位です。
概念を実データへ対応させる

ネスレ日本の発売資料では、製品概要に甘さひかえめ500mlと無糖500mlの二つの製品名が並びます。(ネスレ日本 2025年2月27日 エ(公式))SynClipの公開コーヒー動画では、4本の自主制作サンプルとして、各台本にネスカフェのエスプレッソベース無糖を扱う台詞があります。(SynClip 自主制作コーヒー動画4本)
人が切り出した照合対象は五つです。4件は各台本に出る無糖という商品名で、残り1件は台本03の30ミリと牛乳120ミリを1対4へ換算した比率です。
この対応では、商品シリーズと商品バリエーションを同一視しません。ネスカフェ エスプレッソベースというシリーズ、無糖500mlというバリエーション、甘さひかえめ500mlという別バリエーションを分けることで、根拠を別商品へ誤ってつなぐリスクを見つけやすくなります。
資料の版と位置を持たせる
商品名の根拠は、発売資料2ページの製品概要として持たせます。(ネスレ日本 2025年2月27日 エ(公式))比率照合の根拠は、発売資料1ページにあるベース1対割りもの4の混ぜ方として扱います。
発売資料には1本500mlで約15杯分という注記もありますが、これは1杯分33mlの場合という別属性です。(ネスレ日本 2025年2月27日 エ(公式))台本03の30ミリをメーカー推奨量と断言せず、比率の照合と1杯分の注記を分けて扱います。
資料の版と位置を持たせると、商品名の根拠を見たい時と、比率の根拠を見たい時で戻る場所が変わります。台本の文をそのまま信じるのではなく、どの資料のどの位置に戻るかを同じ単位で残すことが、オントロジー設計の最初の実務になります。
関係の数も決めます。この最小例では一つの主張に根拠の商品事実を一つ必須とし、一つの商品事実は複数の主張から参照できます。商品事実には対象と資料の版と記載位置を必須で持たせました。複数資料の裏付けが必要な業務なら、主張から複数の根拠を結べるように定義を変えます。
広告オントロジー 広告業務全体で扱う対象と関係を確認する
公開コーヒー資料で試した対応
入力にした資料と台本
入力はネスレ日本の2025年2月27日発売資料と、SynClip公開ページにあるコーヒーの自主制作動画4本です。(ネスレ日本 2025年2月27日 エ(公式))発売資料は「ネスカフェ エスプレッソベース」の発売時点の製品概要と混ぜ方を持つ資料として扱い、現在商品の最新仕様を保証する根拠にはしません。
SynClip公開ページの4本は、同じ商品の情報から作成した自主制作サンプルです。(SynClip 自主制作コーヒー動画4本)2026年10月13日に原本を取得し、全4本の全台詞が公開ページと一致することを照合したうえで、顧客事例やメーカー公認の広告成果ではなく編集部の自主制作として扱います。
五つの主張と根拠のつなぎ方
台本から切り出した主張は五つです。台本01から04の4件は無糖という商品名の主張で、台本03の1件は30mlと120mlを1対4に換算した比率の主張です。
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| 台本 | 照合した範囲 | 根拠の位置 |
|---|---|---|
| 台本01 | 商品名の区分が無糖 | 発売資料2ページの製品概要 |
| 台本02 | 商品名の区分が無糖 | 発売資料2ページの製品概要 |
| 台本03 | 商品名の区分が無糖 | 発売資料2ページの製品概要 |
| 台本04 | 商品名の区分が無糖 | 発売資料2ページの製品概要 |
| 台本03 | 30mlと120mlの比率が1対4 | 発売資料1ページの混ぜ方 |
根拠の商品事実は、対象と属性と値と資料位置を持つ単位です。1つの商品名の事実を複数の台本が参照できるため、無糖の商品名の根拠が変わると台本01から04までが確認対象になります。
五条件で何が分かったか
誤接続は、主張が本来とは違う商品事実へつながる状態です。資料版変更は、メーカーが実際に資料を更新した出来事ではなく、確認済み資料版だけを試験用の別識別子へ替えて壊れる場所を見る故障注入です。
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| 条件 | 期待 | 結果 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 正しい対応 | 不整合0件 | 不整合0件 | 保存済み対応が通る |
| 誤接続 | 対象と内容の不一致2件 | 対象と内容の不一致2件 | 商品違いを検出 |
| 根拠削除 | 根拠なし1件 | 根拠なし1件 | 根拠欠落を検出 |
| 資料版変更 | 資料版の不一致5件 | 資料版の不一致5件 | 版違いを検出 |
| 復元 | 不整合0件 | 不整合0件 | 元の対応へ戻る |
5条件は2026年10月13日JSTにPythonで同じ入力のコピーを照合し、すべて期待値と一致しました。これはLLM呼び出し0回の項目一致試験であり、意味推論やAI回答品質の実測ではありません。
商品資料から根拠を取り出す方法 対応付けの前に商品事実を整理する
自社適用で確かめる範囲
業務部門と開発部門の分担
自社適用では、業務部門が意味、対象、資料の範囲を決めます。商品名、資料の版、台本の主張がどの対象を指すのかを業務側がそろえ、開発部門は同じ照合を繰り返せる形へ整えます。
再実行は、一度決めた対応を同じ入力でたどり直し、変更時に同じ検査を繰り返せる状態にすることです。手順は、公開資料の保存版と台詞を固定し、表に対象、属性、値、資料位置、確認済み版を記入し、主張の行から根拠の商品事実へ結びます。そのコピーで接続や版だけを変え、期待値と実出力を比べてから、元の対応へ戻します。表計算でも、主張の行、根拠の商品事実、資料位置、確認済み版の列があれば同じ関係をたどれます。
更新時に壊れる場所を見る
故障注入は、実際の資料更新が起きたと扱うのではなく、接続や版だけを意図的に変えて壊れる場所を見る試験です。2026年10月13日JSTの照合では、確認済み資料版だけを試験用の別識別子へ替えると、五つの主張すべてに資料版の不一致が出ました。資料更新時は新しい事実を足すだけでなく、既存の台本の主張がどの根拠を見ているかまで見直します。
この試験で見たのは、保存済みの主張と根拠の対応を同じ条件で照合できるかです。LLM呼び出しは0回で、速度、費用、検索精度、AI回答品質の改善は測っていません。
構造化の前後で元資料と台詞は変えていません。平文の資料も人が読めば答えられますが、対応表には人が付けた5つの主張と根拠の関係が残るため、同じ項目の照合を再実行できます。増えたのは新しい知識ではなく、対応関係を保存して確認する手段です。
自社の業務で試す
自社の商品資料や台本で、どの主張をどの根拠へ戻せるようにするかを一工程から確かめます。対象業務と確認したい結果を具体化して試作へ進める場合は、インパクトトライアルをご覧ください。



